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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)238号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。

1 成立に争いない甲第二号証(願書添付の明細書)及び第三号証(手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について左記のような記載があることが認められる(別紙図面一参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願考案の目的は、折りたたみ傘の伸長時における中棒の抜出防止装置に関し、構成が極めて簡潔で製作も容易な装置を創案することに存する(明細書第一頁第一九行ないし第二頁第六行)。

(二) 構成

右課題を解決するために、本願考案は、その要旨とする構成を採用したものである(手続補正書第三頁第二行ないし末行)。

これを実施例によつて説明すると、1は長手方向一側面に、内側方向に湾曲した溝部2を有する小径パイプ、4は小径パイプ1の外周面に摺動可能に嵌合する溝なし丸パイプ状の大径パイプである。小径パイプ1の溝部2の、大径パイプ4との接続端部側に嵌合孔3を穿設し、嵌合孔3の内側から(金属片をU字形条に屈曲したばね部材5の一側端上面に固定した)上面を水平面にした円筒形状のストツパー部材6を嵌合し、ストツパー部材6の上側面は嵌合孔3から外部に突出する。一方、大径パイプ4の内周面の、小径パイプ1との接続端部側に、ストツパー部材6を係合して小径パイプ1の抜出防止を図るための、突出部7を設ける(明細書第二頁第七行ないし第三頁第二行)。

大径パイプ4の外周面の、突出部7の後方(すなわち、小径パイプ1と反対側)に小孔8を穿設するが、これは、ピンなどを挿入してストツパー部材6を下方に押圧することによつて係止を解除し、小径パイプ1を大径パイプ4から外して分解修理を行うためのものである(同第三頁第四行ないし第一一行)。

9は、小径パイプ1の内部から外部に向け出入り自在に設けられている「はじき」と称する部材であつて、傘の使用時における中棒の短縮を防止するものである(同第三頁第一一行ないし第一六行)。

(三) 作用効果

本願考案は、左記のような作用効果を奏する。

a 小径パイプ1と大径パイプ4の接続組立てを、大径パイプ4の接続端部側から小径パイプ1をストツパー部材6を下方に没入させた状態で挿入するのみで容易に行うことができ、小径パイプ1のストツパー部材6が大径パイプ4の突出部7と係合した後は、小径パイプ1の抜出が確実に防止される(同第六頁第一四行ないし第七頁第六行)。

b 中棒の短縮防止のために小径パイプに出入り可能な突出部を設けると、中棒を短縮したとき、右突出部が小径パイプ内に没入され、突出部を支持するばね部材が屈曲したままの状態となるので、ばね部材が疲労するとの問題点がある。本願考案は、「はじき」を外せば直ちに小径パイプ1を大径パイプ4内に摺動させて中棒の短縮を円滑かつ確実に行うことができるから、右のような問題点がなく、全体の構成が簡潔となり経費を節約し得る(同第七頁第一六行ないし第八頁第一九行)。

c 小径パイプ1を簡単に大径パイプ4から外せるので、中棒の分解修理を容易に行い得る(同第九頁第五行ないし第九頁)。

2 一方、引用例に審決認定の技術的事項が記載されており本願考案と引用例記載の考案が審決認定の二点において相違することは、原告も認めて争わないところである。

3 原告は、審決は本願考案と引用例記載の考案の相違点を看過していると主張する。

しかしながら、原告が主張する相違点は、傘の使用時における中棒の短縮を防止する構成に係るものであるが、前掲甲第三号証によれば、右の構成が本願考案の実用新案登録請求の範囲に全く記載されていない事項であることは明らかである。それゆえ、原告の右主張は本願考案の要旨に基づかないものであるから、採用することができない。

4 また、原告は、本願考案の小孔8がピンのように細い部材を挿入するための極めて小さい孔であることを前提として、審決の相違点<1>の判断の誤りを主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、本願考案の実用新案登録請求の範囲においては、「小孔8」がどの程度の径のものであるか、何ら限定されていないことが明らかである。

のみならず、周知例に、折りたたみ傘を分解するため中棒抜出防止用のストツパー部材(ストツパー片7)を押し込む技術が記載されていることは原告も争わないところであるから、引用例記載の中棒基体3(本願考案の大径パイプ4)に孔を穿ちこれに何らかの部材を挿入してストツパー部材を押し込むこととし、かつ、右孔を「折りたたみ傘の外観を損なわないのみならず、大径パイプ4内に雨水などが侵入して錆を生ずるおそれもない」程度の径のものとすることは、当業者ならばきわめて容易に想到し得た事項といわざるを得ない。

したがつて、審決の相違点<1>の判断に誤りはない。

5 さらに、原告は、審決の相違点<2>の判断に関連して、本願考案のストツパー部材6の上面を水平面としたことの技術的意義を強調する。

しかしながら、折りたたみ傘の中棒抜出防止用のストツパー部材6(引用例記載の突部8)は、ばね部材5(引用例記載のU字形ばね片10)によつて大径パイプ4(引用例記載の中棒基体3)の内周に押し付けられているものと解されるから、ストツパー部材6を押し込むための部材を挿入する孔が、大径パイプ4の、ストツパー部材6の上面のおおむね中央に当たる位置に穿たれている限り、ストツパー部材6の上面の形状が水平面であろうと弾頭状であろうと、これを押し込む操作の利便に有意的な差異があるとは考えられない。それゆえ、ストツパー部材6の上面の形状をどのようなものとするかは、これを押し込む操作の利便のみならず、これを嵌合孔3(引用例記載の突出孔6)に嵌合する操作の利便などをも勘案して、適宜に決定することができる設計事項に属するというべきである。

したがつて、審決の相違点<2>の判断にも誤りはない。

6 以上のとおりであるから、本願考案は引用例に記載されている技術的事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

長手方向一側面に内側方向に湾曲する溝部を有する小径パイプと、

右小径パイプの外周面に摺動可能に嵌合する溝なし丸パイプ状の大径パイプとから成る折りたたみ傘用中棒において、

前記小径パイプの溝部の、大径パイプとの接続端部側に嵌合孔を設け、

右嵌合孔内に、その内側方向より、ばね部材の上面に取り付けた、上面を水平面となした円筒形状のストツパー部材を嵌合して、このストツパー部材を外部に突出せしめると共に、

前記大径パイプの内周面の、小径パイプとの接続端部側に、前記ストツパー部材を係合し、小径パイプの大径パイプよりの抜出防止を図るための突出部を設け、

右突出部の後方、小径パイプとの接続端部側と反対側位置の、大径パイプの外周面に小孔を設けたこと

を特徴とする、折りたたみ傘用中棒の抜出防止装置(別紙図面一参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

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別紙図面二

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(他は省略)

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